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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)212号 判決 1968年4月02日

上告人

小寺哲主

ほか一七名

右上告人ら一八名代理人

菅原裕

ほか八名

被上告人

松本金次郎

ほか一三名

右被上告人ら一四名代理人

滝口稔

右被上告人ら補助参加人

右代表者法務大臣

赤間文三

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人<略>の上告理由第一点について。

本件土地がもと上告人らの所有であつたところ、自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)三条の規定によつて国に買収され、その後原判示の分合筆を経たうえ、同法一六条および一部につき農地法三六条の規定によつて被上告人らもしくはその被相続人らに売り渡されたことは、原審の確定したところであり、自創法三条による買収が憲法二九条三項にいわゆる正当な補償をもつてなされたものと認めるべきことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(オ)第九八号同二八年一二月二三日大法廷判決・民集七巻一三号一五二三頁参照)。右判例の趣旨に徴し、さらに、自創法二八条、農地法一五条、三六条によると、買収農地の売渡を受けた者が自作をやめまたは売渡を受けた者およびその世帯員以外の者が耕作している場合には、政府がこれを買い取りまたは買収したうえ、さらに自作農として精進する見込のある者に売り渡すことになつていること、農地法四条、五条は、農地を農地以外のものに転用しまたは転用のために所有権を移転する者が都道府県知事または農林大臣の許可を受けることを要する旨定めたものであつて、自創法によつて売り渡された農地を除外していないこと、自創法一二条、二一条あるいは農地法一三条、四〇条は、買収および売渡の効果としての所有権の移転になんらの留保もしていないことを考慮すれば、国は買収によつて農地の完全な所有権を取得し、かつ売渡により右所有権は完全に売渡を受けた者に移転するものと解するが相当であり、これと同趣旨に出た原審の判断は正当である。自創法および農地法による農地買収および売渡が当該農地が農地としての機能と性質を失うことを解除条件とする旨の論旨ならびに右農地買収および売渡による所有権移転は信託的譲渡である旨の論旨は、いずれも右に反する独自の見解として、採用するに足りない。自創法および農地法の各規定の違憲をいう論旨も、右見解に立脚するものであるから、ひつきよう、前提を欠くに帰するものであつて、採用するによしない。したがつて、論旨はすべて理由がない。

同第二点について。

自創法三条による農地買収が正当な補償をもつてなされたものであることは、前記上告理由第一点に対する判断に説示したとおりであり、その他原審の確定したところに照らせば、本件土地の転用転売による被上告人らの代金取得が上告人らの損失に基づくものといえない旨の原審の判断は、是認しうる。論旨は、これと異なる独自の見解に立つて、原審の正当な判断を非難するものであつて、採用するに足りない。

同第三点について。

自創法により国から買収農地の売渡を受けた者が、当該農地を農地以外のものに転用しまたは転用のための権利移転をしようとする場合に、国が再買収するかどうかは、国の立法政策の問題であり、農地法四条、五条が転用または転用のための権利移転についてその対象たる農地につき所論のような制限をしていない以上、本件土地について転用または転用のための権利移転を有効と認めた原審の判断は、相当である。また、農地法八〇条、農地法施行令(農地法施行規則は誤記と認められる)一七条、一八条は、いずれも売渡処分がなされず農林大臣の管理にかかる買収農地に関する規定であつて、本件とはなんら関連のない規定であり、したがつて、右農地法施行令の規定の違憲をいう論旨は、いずれも、判決に影響のない事項を主張して原判決を非難するものにほかならない。それゆえ、論旨は採用するに足りない。

同第四点について。

本件土地はいずれも国が農地として上告人らから買収したうえ被上告人らに農地として売り渡したものであることは、論旨指摘のとおりであるが、このように売渡を受けた被上告人らにおいて本件土地を農地以外のものに転用しまたは転用のための権利移転をすることを禁止するかどうかは、国の立法政策の問題であり、自創法による買収処分が旧所有者から農地としての利用権のみを奪つたにすぎず、宅地としての利用権ないし価値は旧所有者に残存する旨の論旨は、独自の見解にすぎない。そして、上告人らが本件土地の買収を受けるにあたり国から正当な補償を受けていることは、前記上告理由第一点に対する判断に説示したとおりであり、被上告人らが本件土地を日本住宅公団に売却することによつて利益を得たとしても、その利益が上告人らの損失において得られたものということはできないのであり、これと同趣旨に出た原審の判断は、相当である。なお、農地法一五条による国の再買収を云為する論旨は、いわば原審の傍論的記載を非難するものにほかならない。したがつて、論旨は採用するに足りない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

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